不本意

※ロイハボロイ。









ハボックは困ったなと思いながら上司の顔を見上げていた。
覆い被さるような体勢で逃げられないように来客用のソファーに押し倒されて。
ろくに身動き出来ない事に――表面には出さないが――内心酷く焦っていた。
相手は優しく触れてくるだけだが、それが逆に次の行動を読めなくさせている。
「あの、大佐」
「なんだ?」
「俺、書類届けに来ただけなんですけど」
「知っている」
それがどうしたと言いたげに、ロイは首を傾げた。
その言葉と同時に、触れるだけだった手がすっと頬を覆い。
口付けられる。
官能を呼び起こすような種類のものではないがすぐさま別の個所に滑っていく唇に、ハボックは内心酷く慌てていた。
ロイが何を望んでいるかなど、言われなくとも分かる。
だが。
それを承知の上で、ハボックは穏便に断る方法を探していた。
「大佐…今は勤務時間中っスよ」
とりあえずあまり効果はなさそうだが言ってみれば。
返って来る答えは予想通り。
「知っている」
という素っ気ないもので。
ハボックは小さく溜息をついた。
「なら…」
止めましょうよ、と続けようとした途端。
ロイはそれを見越していたかのようにまた唇を合わせてきた。
「…ん」
先程のものよりはっきりとした欲望の色が感じられるキスに。
ハボックは首を振って逃れようと試みる。
「大佐…」
何とか息を継ぐ合間に抗議の声を上げるハボックに。
ロイは黙れと低く唸り、噛みつくようなキスを仕掛けた。
「…っ」
口内を探られて戸惑い。
相手の身体を押し退けようとするハボックだったが。
何処にそんな力があるのか、あっさりと手首を捕まえられてねじ伏せられてしまう。
「…往生際が悪いぞ」
不満気にそう漏らす自分勝手な上司に。
ハボックは勘弁してくれと本気で思った。
「中尉にすぐに戻るって言って来たんです」
それに残業したくないし。
このままじゃ仕事が時間内に終わらなくなると指摘する彼に。
ロイは眉間に皺を寄せた。
そのまま何か考え込む仕草をみせる、その様子に。
ハボックは嫌な予感を覚え、半ば無意識に逃げをうつが。
それは体重をかける事であっさり阻まれてしまう。
「大佐?」
「………」
返事はない。
「あの」
「…中尉なら多分問題ないだろう」
それと、仕事の方は手伝ってやる。
そう言いながら耳元にキスされ、反射的に身を竦めたハボックにロイは低く笑う。
その、明らかに何か(ハボックにとって)良くない意味合いを含む笑みに。
ハボックは、ここに書類を運んできた数分前の自分を心中で詰った。
後悔先に立たず。
そう分かっていても足掻いてしまうのが人間というものだ。
「………どういう事っスか」
「大丈夫だと言う事だよ、少尉」
そう言って。
するりと滑り降りる指先が、ハボックの服を脱がせにかかる。
「…ちっとも大丈夫に思えないんですけどね…俺には」
「大丈夫だ」
何の根拠があるのかはまったく分からないが、ロイがそう断言する以上(一部を除いて)問題ないのだろう。
すっかりその気になってしまっている上司の様子に。
逃げる事は不可能だと判断したハボックは、諦めてそう考える事にした。
もし何かあれば――勿論残してきた自分の書類に関しても――全部ロイのせいにしてやろうと心に誓い。
それから、せめてもの抵抗とばかりに、大きく溜息をついてやった。
「…ったく…アンタって我侭過ぎですよ」


もう好きにしてくれ。
そう投げやりに呟いて。
ハボックは目を閉じて与えられるキスを受け入れた。
















※元web拍手用SSS。


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