ケンカの理由

※ロイハボ。いろいろ愛が足りない感じ。









「…で、あいつら何があったんだ?」
ヒューズのどこか楽しげな口調での問いかけに。
リザ以下、東方指令部の面々は大きく溜息をついた。
「何があったのかは分かんないんスけど、ずっとあの調子でこっちが参っちまいそうなんですよ」
「ここ三日くらいずっとなんです」
「我々も探り出そうと努力はしたのですが…」
「あの二人にも困ったものだわ…」
そこでもう一度全員で溜息をつく。
ちなみに、上から順にブレダ、フュリー、ファルマン、リザの発言である。
「…三日ね。どうせまたアレだろ。痴話喧嘩」
その言葉に一同は大きく頷く。
それ以外考えられない。
しかも悪いのは絶対大佐だ。
そう、その場に居た全員が思っていた。
「また浮気か…」
「でなければ嫌がるのを無理やりとか」
「…?」
その言葉が発される寸前にフュリーの耳を高速で塞いだファルマンが、ブレダに視線を送る。
「ああ、すまねぇ。でだ、このままじゃ職場環境が最悪。何とかしようって事になったんだが…」
「うまくいかないのか」
「押しても引いても全然ダメで、こっちもお手上げ状態っスよ」
何とかしてください、中佐。
彼らの懇願の眼差しにヒューズは仕方ないなと頭を掻く。
「ロイの奴はちゃんと謝ったのか?」
「はい。それはもう謝り倒すと言った勢いで」
「でも、少尉は全て無視なさっているんです」
「そうか…おい、ロイ」
もう何度目になるか分からない溜息をつく彼らに同情しつつ、ヒューズは珍しく机に向かっている(リザに厳命されたらしい)親友に声をかける。
「…なんだ」
「お前一体何したんだ?」
「…………」
問われた途端、むっとしたような複雑な表情で押し黙る彼にヒューズは笑う。
何とかしたいのは同じだろうに人の手を借りるのは癪なのだ。
まったく素直じゃない。
「おーいロイちゃん。せっかくこの俺様が仲直りのお手伝いをしてあげようって言うのに無視はないんじゃないか?」
「私は頼んでいない」
きっぱりと言い切るが。
「大佐」
リザのそのたった一言で、ロイは慌てたように口を開いた。
その慌て様がそのまま力関係を表わしているようで何とも涙を誘う。
「…そっ、それがだなっ。先日デートの帰りにナンパされてだなっ。会話が弾んでついつい長話をしていたら、ハボックが可愛らしい女性を連れて宝石店から出てくるところを目撃したんだ。それで翌朝問い詰めたところしらばっくれたのでついかっとなってしまって…だな…」

……………。

いろいろと突っ込みたい点はあるのだが。
「つまり、執務室で事に及んでしまった…と」
あえて突っ込まずに、ヒューズはそこにだけ焦点を絞った。
「ああ…」
神妙に頷いて、その後あまり品がいいとは言えない笑みを浮かべたロイに。
ブレダは軽く身を引き、ファルマンは再度フュリーの耳を両手で塞ぐ。
「大体だな…あの時のハボックはものすごく」
「へえ、ものすごく…何ですか?」
誰がどう考えてもいかがわしい言葉が続くのだろうそれは、低く冷たい声に遮られた。
「………はは(汗)」
笑みはそのままに頬を引きつらせるロイに、声の主――ハボックはそれはそれは爽やかな笑顔でさらに問う。
「続きは何ですか?大佐?」
「い、いや…あの、だな…」
「俺には言えないような事を口にしようとしてたんですね?」
「うっ……だっ、大体っ、私はこの前の女性についての言い訳も聞いていないぞっ!それはどうなんだっ」
だいぶ錯乱気味らしい。
今ここで言及すべきでない事を口にしてしまった憐れ(と言うか間抜け)な上司に、その場に居た者達が白い視線を送る。
その心中は大体こんな感じだ。

――あんたバカですか?

時と場合を考えない発言は大概逆効果になるものだ。
事実、ハボックは。
「アンタには関係ないですよ」
とだけ言って彼の目の前に種類の束を置き、もう目を合わせようともしない。
「なっ」
「自分の浮気は隠しもせずに棚上げで、俺だけ追求されるなんて変じゃないですか?」
「うっ」
明らかに不利な状況に自ら追い込まれたロイに、彼の部下たちは深く長い溜息をついた。
「こりゃ、当分仲直りはしてくれそうにないな…」
「そうですね…」
「あうう…」


その後。さらに拗れた二人の仲を取り持つ気などないヒューズはと言えば。
謝り続けるロイを無視して部屋を出たハボックの後を追っていた。
勿論、目的は一つ。
事の真相を聞き出す事だ。
「…で、結局その女性って誰なんだ?」
お前に限って浮気って事はないだろ。
そう聞いたヒューズにハボックは。
「俺の妹ですよ。今度結婚するんで指輪買いに彼氏と来てて。昨日は彼氏の方が仕事で呼び出されたんで…あ、俺らの幼なじみなんですよ。そいつ。で、俺が下見のお共をさせられたって訳です」
あっさりとそう白状した。
ロイも聞き方さえ間違えなければ教えてもらえただろうに。
もっとも、ハボックの事に関してはやたらと嫉妬深い彼には穏便な聞き方などできるはずもなかっただろうが。
「そういうわけか」
「そういうわけです」
大佐には言わないで下さいね。
笑顔で口にしたハボックのその言葉に。
ヒューズはほんの少しだけ憐れな親友に同情した。















※元web拍手用SSS。


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