わんことにゃんこな錬金術師

※「わんこと錬金術師」から派生した、本編からは独立した話。ネタはオフ友提供。










「なぁ…猫って何食うと思う?」
「あ?」
猫?と怪訝な顔で聞き返す親友に。
ジャン・ハボック――国軍少尉。人の姿をしているが実は犬のキメラだ――は書類に視線を向けたまま「そう。猫」と頷いた。
「…拾ったのか?」
「まぁ…成り行きって言うか…昨日の夜雨降ってたろ?近道通ってたら落っこちてたんだよ」
「…犬が猫拾うなよ」
親友――ハイマンス・ブレダの呆れた眼差しでの呟きに、ハボックは漸く書類から目を離す。
「あそこまで弱ってるのを見捨てるのは人としてどうかと思う」
――人じゃねぇだろ、お前は。
そう言いたかったブレダだったが、言ったところで無意味なのは分かり切っているのであえてそれは口にしなかった。
「で、猫って何食うと思う?」
「普通に猫缶とか魚とかやれば良いだろ」
「いや、元人間の猫みたいだからそれってどうなんだろうかって思ってな」
………。
…………。
……………。
「は?」
「どうした?」
「いやお前…」
「さすがに俺だって犬缶は食いたくないしなぁ…」
困ったな。
そう言って首を捻る友人の、どこまでもマイペースな姿に、ブレダは盛大な溜息をついた。

つくづく妙な友人を持ったものだ。

それが今のブレダの心からの本音だった。



とりあえず、にゃんこは出て来ないまま終了。にゃんこの正体は言うまでもなくあの人です。メモだけに何もかもかなり適当。続く?






※全篇猫語翻訳バージョンでお送りしております。

『ハボ!』
殆ど突進に近いスピードと衝撃で足に飛びついて来た黒猫を、ハボックは大きく溜息をついて引き剥がした。
自分の勘の良さを感謝すべきなのか、逆に恨むべきなのか。
その辺の問題は置いておくことにするとして。
とりあえずハボックに言える事は、まだ出勤時間には少し早いが来て正解だった、という事だけだった。
「…大佐。アンタ昨日はちゃんと人間でしたよね」
『仮眠室で寝ている間になったらしい』
ハボックの言葉に、摘まれたままの黒猫――ロイ・マスタング、今は猫の姿だが地位は大佐だ――はそう答える。
「…いつ頃なったんですか」
『起きた時は2時位だったぞ』
「それからずっとですか」
『それからずっとだ』
仮眠室のドアを開けられなくて大変だったとか、何とか人が入った時に出てきたが尻尾を踏まれそうになっただとか。
その他色々あった事を報告するロイ――ちなみに、さっさと肩に移動して乗っている――に生返事を返しながら廊下を歩いていくハボックだったが。
ふとある可能性に気付き、足を止めた。
非常に嫌な予感がする。
「………書類」
『ん?』
「書類、終わってないですよね」
中尉に言われてた奴。
問いに、猫耳がぴっと後ろを向く。
『この姿で出来る事は少ないのだぞ』
答えは遠まわしながらYESであるらしい。
思わず洩れそうになった溜息を堪え、
「でも、読むくらいは出来ますよね?」
と、更に問えば、今度はふいっと視線を逸らす。
『…………』
尻尾がゆらゆら揺れている。
「何やらかしたんですか、大佐」
『一応、読もうとはしたんだ』
「…………」
『雪崩を起こすなど想像しなかったのだ』
「つまり、今現在アンタの部屋は雪崩を起こした書類に埋もれてるわけですね?」
『世の中どうにもならん事もあるという事だよ、ハボック少尉』
「………」

――事の張本人が何でそんな態度をとれるんだ。

そう思ったハボックだったが、かと言って猫の時のロイが役に立たない(むしろ邪魔だと言える)のは今までの経験から分かり切っている事で。
ハボックは諦めたように肩を落とし、のろのろとロイの執務室に向かって歩き出した。
中尉が出勤する時間までにロイを元に戻して書類を片付けられるかどうか。
それが最大の危機を乗り越えられるかどうかの焦点なのだけは確かだった。


思いつくまま即席ネタ。
にゃんこの飼い主はわんこなので、責任を取らされるのはわんこです。因みに中尉に任命されました。飼い主と言うよりは子守で保護者。






ぱたりと、艶やかな長い尻尾が揺れる。
――不愉快だ。そう思う自分すら不愉快だ。
いつもなら心地よい木の上での午後の昼寝すら、今のロイのささくれ立った心を癒す事は出来そうになかった。

よく動く長い尻尾、ピンと立った三角の耳。
美しい黒い毛並みは我ながら賞賛に値すると、そう思うが。
だからと言って猫である事実が変わるわけではないのだ。
最初にこの姿になったのがいつだったか、ロイ自身もうはっきりとは覚えていない。
これが錬金術によるものか、或いは病気なのか。
それすら分からない。
ただ気が付けば既に猫の姿だったのだ。

ロイは苛立たしげに木の枝に爪を立てる。
最初こそ焦ったがいつの間にか――猫になった時と同様に人間に戻っていて、何度もそんな状態を繰り返すうち変化にも慣れてしまった。
だが、やはり実際に生活する上で弊害が――やたらと眠くなるとかこの姿では仕事にならないとか色々――あるのも現実で。
その中で現在一番の問題がロイの不機嫌の原因だった。
この姿では感情を偽る事すら難しいという事。
自身の意思とは無関係に心情を如実に語る耳と尻尾、毛並み。
これだけは本当に苛立たしいと、ロイは低く唸る。
つい数時間前、ハボックと喧嘩をしてしまったのもこれが原因なのだ。
些細な事だったのに過剰反応した自分の尻尾が恨めしい。
苛立ちに、またぱたりと尻尾が揺れた。


「たいさー、そろそろ降りてきてくださいよ」
下から聞こえる声に薄目を開ければ、金色の大型犬がロイを見上げている。
さっきからずっとそこにいる事は知っていたが、今顔を合わすのは気まずいのであえて無視を続ける事にして。
ロイは深く溜息をついた。

――せめて、犬であれば良かったのだ。

もしそうならば、眼下のこの大型犬と同じなのだから多少難があっても許せる気がする。
そう思うのはロイの我侭なのだろう。
だがそれでもそう思わずにいられない自分に。
ロイはもう一度溜息をついて目を閉じた。
















※主題はない。


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