恋愛中毒末期症状

※わんこ小話。わんこ⇔飼い主時代。旧サイト内企画『恋模様20のお題』より。









「ハボ、お前首輪しっぱなしだぞ」
ブレダの言葉にハボックは突っ伏していた机から顔を上げた。
だるそうにブレダの顔を見やり、それから視線を下に落として。
辛うじて視界に入る赤い首輪の端に、大きく溜息をついた。
「…忘れてた」
それだけ言って、また机にへばりつく。
「取らなくて良いのか?」
「ん…もう何か面倒だし」
本当に面倒そうに言うものだから、ブレダは呆れてしまった。
あれほど嫌がっていたくせにとか。
面倒なら取らないでいい程度のものならあそこまで騒ぐんじゃねぇよとか。
言いたい事は山のようにあったのだが、結局。
「変身した時、一緒に変えちまえば良かっただろ」
どうせ犬の時につけられたんだろうが。
と言ってみるだけに留めた。
そんな親友の気持ちを知ってか知らずか、ハボックは大げさに溜息をついて首を振る。
「そうだけどな…練成するわけにはいかないんだよ」
「?…何でだ?」
「ロ…大佐が、わざわざ買って来てくれたもんなんだ…」

………。

どう考えても、その台詞は惚気の一種にしか聞こえなかった。
だから。
自分の席に着こうとしていたブレダがその体勢のまま固まったとしてもそれは仕方のない事だったろう。
「…………お前さ、そこまで大佐が好きならいい加減――」
「ブレダ。それ以上言ったらお前の事犬にして犬舎にぶち込んでやるからな」
何とか声を絞り出して口にした言葉は、怒りを含んだ声に遮られて最後まで言わせてもらえなかった。
「……わかったよ…もう言わねぇ」
恐ろしい想像をしてしまい、ブレダは恐怖に引き攣った顔のまま頷く。
「自覚はあるんだ」
目を閉じて呟かれた言葉は、悲痛だと思えるほどの響きを帯びていた。
「好き過ぎて、おかしくなりそうなんだよ」
ハボックが、自分が犬である事を理由にロイを拒んでいる事をブレダは――ブレダに限らずだが――よく知っている。
だが、不思議に思うことも事実なのだ。
ハボックは確かに元は犬だが厳密な意味においては犬ではないし、少なくとも今のように人間の姿になる事もできる。
しかも当のロイ自身が犬でも何でもハボックがいいのだと言っているのだ。
「…………そこまで拘るようなもんなのか?」
「…ヒトのお前や大佐には分からないだろうけど、俺には重要な事なんだ」
「………」
問いに返る答えはいつもと同じで、ブレダはこっそり溜息をついた。
ハボックが何を思ってダメだと言い張るのかは分からないが。
おそらく自分には理解できないような禁忌とかが彼の中にはあるのだろうと思う。
だけれど――


――もうこの際そんなもん忘れてしまえと、そう思うのは間違いだろうか。
答えの出ない問いを胸の中だけで呟いて。
ブレダはそれ以上何も言わずに、自分の机に広げられた書類に向き合う事にした。
















※とりあえずブレさんが大好きです(告白)


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