どうしようもないのは、自分だ

※わんこ番外。旧サイト内企画『恋模様20のお題』より。









「大佐ー、お仕事っスよー」
間延びした声に、ソファーで眠っていたロイは薄く目を開けて相手を見遣った。
「…………人が気持ち良く寝ていると言うのに邪魔をするな」
「アンタね…中尉が居ないからってサボってないで下さいよ」
「中尉が出勤してくるまで私は自主休憩だ」
随分と問題のある発言だが、最近の彼の状況――年末なのでいつにもましてデスクワークばかりなのだ――を知っているハボックは溜息をついて、
「いや、俺も急ぎの仕事がなきゃ大目に見るんですけどね…これ」
そう言って書類を差し出した。
「?」
ロイはそれを覗き込み、頷く。
「ああ、これか」
その書類は、随分前に手を付けかけて、その時に起きたある一件が原因で忘れてしまったものだった。
日付を見れば、期限は明日に迫っている。
「ちゃんと目を通してくださいよ。昼までに確認しておかないと中尉が来ちゃうんですからね」
「……分かった」
意外なほど素直に受け取り、目を通し始めたロイに苦笑して。
ハボックは退出しようとノブに手をかけた。
が。
「ハボ、ここだ」
声をかけられ、訝しげに振り返り。
視線の先、ぽんぽんと手で自分の隣の空いている場所を叩くロイにハボックは首を傾げた。
「…?」
「隣に居ろ。寝て良いから」
来いと命じる飼い主に、ハボックは困ったように少し考える仕草をした。
ハボック自身もまだかなり仕事が残っているのだ。
長居すれば残業もあり得る。
だが、ロイが疲れているのが気になるのも事実なのだ。
このところずっと司令部に詰めているせいか、最小限の会話と接触しかしていない。
暫くの間、ぐるぐると葛藤していたハボックだが、

――疲れてるロイを放っておくのは危険だし…

などと、誰にという訳でもない言い訳をして。
「…じゃ、遠慮なく」
と、犬の姿になってソファーに上る。
「枕にしないで下さいね」
「…ならクッション」
「却下っス」
「チッ」
「チッて何ですか、チッて」
「う、うるさい。さっさと寝ろ」
「はいはい。分かりました」
そんな会話をしながら、ハボックはロイを横目で見た。
普段からは想像もつかないほど真剣に書類に取り組んでいる姿に目を細め。
「寝ないのか?」
そう訊きながら片手で毛を梳く飼い主に首を緩く振って。
「おやすみなさい、ロイ」

――俺は結局ロイには甘いんだよなぁ…

そんな事を考えながら、目を閉じた。
















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