わんこと錬金術師 番外










「普通、人間と犬って一緒に湯舟に入ったりしないと思うんですけど…」
ハボックはそう言ってお風呂の縁に顎を乗せた。


「ハボック、風呂に入るぞ」
そう言ったロイに、ハボックはまた洗うのかとか面倒だとか思いながら従ったのだが。
脱衣所でいそいそと服を脱ぎ始める飼い主の姿に、一瞬どう反応すべきか本気で迷った。
辛うじて口に出来たのは。
「…まさかアンタも入る気ですか?」
という言葉だけで。
それにさも当たり前のように頷いた飼い主を押し止めるような、そんな言葉は浮かんでこなかったのだ。
その結果が冒頭の台詞である。


「たまにはいいだろう」
そう言ってハボックの毛を指に巻いて遊ぶロイに。
ハボックはもう好きにしてくれと放置の構えを見せる。

大体この少しばかり――と言うには色々抜けているが――常識外れな主人相手に本気で反論しても無駄なのだ。
屁理屈を捏ね繰り回してこちらを煙に巻いてごまかしてしまおうとするし。
何よりも、納得させるのにとにかく時間がいるのだ。
納得できない事はとことん突き詰めようとする、何とも難儀な性格。
それにはさすがのハボックもお手上げだった。

「…って言うか、狭くないっスか?」
幾らロイの家の風呂が広いとは言っても、個人用のバスタブに大型犬と一緒に入っているのだ。
狭くないはずがない。
実際、ハボックもロイも大して身動きできず密着した状態だった。
だが、ロイは首を横に振る。
「別に構わない」
ぎゅっと抱きしめられて、そうですかと答えるハボックの声は既に疲れ切っている。

――って言うか…犬と人間だけど、男二人で風呂ってのはちょっとなぁ…

尤もらしい事を考えつつロイの方に目をやれば。
「…アンタ何してんですか…」
尻尾の比較的長い毛で小さなみつあみを編んでいる姿にますます脱力する羽目になった。
「…ハボック、可愛くできたぞ」
ほら、と幾つも作られたそれ見せられて、ああそうですか、と気のない返事を返して。
ハボックは顔の向きを変えた。
元々密着した状態で顔を横にして縁に乗せていただけなので、そのまま向き合う形になる。
「どうした?」
不思議そうに問う飼い主に溜息をついて。
ハボックは彼の肩に頭を乗せた。
甘えるようなその仕草に、ロイは嬉しそうに飼い犬を抱きしめ。
何を思ったかくすくすと笑い出す。
「何ですか?」
「…シャンプーの匂いが同じだ」
「そりゃ、同じもん使ってますしねぇ」
アンタが洗ったんでしょうが。
「ん。そうだな」
そう答えて頬を擦り寄せるロイは上機嫌だ。
「そろそろ出ます?」
「…もう少し」

何故かとても幸せそうな飼い主に。
のぼせそうだと思いながら、ハボックは諦めて目を閉じた。
















※もちろんこの後、お約束でのぼせる二人(一人と一匹)。


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