きみのいる場所










「っ」
声にならない叫びを上げて、ロイは飛び起きた。
心臓の音がまるで耳元で聞こえているかのように感じる。
そっと、隣に眠るハボックを窺えば、その目は閉じられたままで。
起こさなくて良かったと心底安堵した。
室内はまだ暗く、真夜中であることは明白で。
だが寝直す気にはなれず、ロイはぱたりと身体を横にして少し上の位置にある彼の顔を見詰める。

――嫌な夢だった。

心の中でだけの呟きは、いまだ速いままの鼓動を静めるには足りない。

「嫌な、夢だったんだ」

小さく、聞こえない程度の声量でもう一度呟く。
それでも、まだ足りない。
目の前にある穏やかな寝顔に手を伸ばし、そっとその頬に触れてみる。
意外に滑らかな肌は触り心地が良くて。
ようやく。
実感が湧いた。

「ん……たいさ?」
触れた指先の感触に目が覚めたのか、ハボックが眠そうな声でロイの名を口にする。
それでも構わずさらに頬を撫でる手を己のそれで捕らえ、空いた方の手でロイを抱きしめて。
「…どうしたんですか?」
問う声はまだ本当の覚醒に到ってはいないが。
優しくあやす様に背を撫でてくる手は、ロイを安心させるには十分なものだった。
「…夢を…見た」
ぽつりと零した声に。
「ゆめ?」
返される言葉の主こそ、まだ半分夢の世界にいるだろうに。
それでも返事をする律儀な彼にロイは微笑む。
「そう。夢だ」
「どんな?」
「どんなに探しても、お前がいない世界の夢」
そう零した瞬間。
ハボックの目が見開かれてそのまま幾度も瞬きを繰り返すのを見て、ロイは面白そうに笑う。
「夢だと知ってたから。必死で目を覚まそうとしたんだが、何度覚めてもそれはまだ夢の中で、このまま現実に帰れなかったらどうしようかと思った」
「…何で、夢なのに俺がいないんですか?夢だと知っていたならある程度は思うとおりにできるでしょう?」
「そこが夢の面白いところだな。私が無意識に出来ないと思っていることは決して出来ない」
「………よく分かんないんですが。何で、俺を夢で見ることが出来ないんですか?」
「それはな」
ロイはくすくすとおかしそうに笑って、一度は阻まれた手を再度ハボックの頬に伸ばす。
触れて、確かめて。
「お前がいるのが現実だからだ。私はお前がいるこの世界こそが現実だと、そう思っているらしい」
その言葉にハボックは少しだけ首を傾げ、その言葉の意味を考える。

――ああ。それはつまり…。

「アンタにとっての俺は、現実にいる俺、たった一人だけってことですか」
「そういうことだ」
夢の中の仮想のお前が欲しいわけじゃないのだと、そう囁かれて。
ハボックはどこか幸福そうな苦笑を零した。
「俺は、ここにいます」
「ああ…だから、ここに、帰って来たかったんだ」



触れて、確かめて。
それが現実であることをようやく理解し安堵する。
決して良い事だけの世界ではない。
決して優しいだけの世界ではない。
つらい事だって山のようにある。
悲しみに、苦しみに。嘆く時だってある。
だけど。
此処こそが『きみのいる世界』だから。
だから、自分は此処に帰り着きたいのだ。
















※意味不明。こんな感じの夢を見たのでハボロイに置き換えて書いてみただけ。


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