祈り
真夜中にふと、目が醒めた。
何故か、酷く、気分が悪い気がした。
急激な覚醒が、何かが欠けたような、何かが違っているような、そんな奇妙な不快感を与えている。
手のひらにかいた汗。
少し荒い呼吸。
「…夢?」
ぽつりと洩らす言葉に確信はない。
だが、強い不快感が訴えている。
それは大切なものを取り落とす夢だったのだ、と。
「たいさ?」
声は半ば吐息のようなもので。
今隣で眠る相手を起こすほどの強さはない。
しがみつくように眠る人を起こさなくてすんだことに安堵した。
あれは夢だ。
夢のままでなければならない。
そう強く、自分に言い聞かせる。
忘れるな。
お前はこの人を守るのだろう。
心臓が止まる、最後の一瞬まで。
この人にさえ教えない誓い。
教えたら多分そんな事は許さないと言うだろうから。
だから、絶対に教えない。
「…ハボ…?」
小さい、呟きに似た声に振り向けば。
目が醒めてしまったらしく、眠そうに瞬く姿があって。
そんな姿すら愛しくて。
お願いだから。
貴方の為にいつか命を落とすその時に。
どうか悲しまないで欲しい。
自分は絶対、後悔だけはしないから。
「…何でもないです。俺はここにいますから」
眠って下さい。
今はまだ、貴方の傍にいるから。
この命が尽きるまではいるから。
「…ん」
半ば夢の中にいるが故の幼い仕草で頷いて、そのまま小さな寝息を立て始める人。
そっとその頬に口付けて、そして、思う。
願わくば、この人の上に、これ以上悲しみが降り注がぬようにと。
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