いちご味










「甘…」
ハボックは口にしたそれを思わず取り落としそうになった。
辛うじて何とか回避できたが、手に持ったそれをしばし見つめ、そして。
「大佐…」
彼に『それ』を手渡した当人を振り返る。
もっともそんなハボックの内心を理解してくれる程、彼の上司兼恋人は彼にとって優しい人物ではなかったが。
「なんだね」
答えたロイの手にはハボックが手にしているのと同じ物体があって。
そこでハボックはようやく思い出した。

――そういやこの人、甘いもんが大好きなんだよな。

記憶の片隅に残された、いつだったか、薦められたが結局完食できなかった小さなケーキと。
そして、その時のロイの表情を思い出してしまった。

手渡されたそれと、ロイの手のそれと。
交互に見比べた後、ハボックは観念したようにそれを口に戻す。
口に広がる、甘味と苦味。
「悪くないだろう?」
子供のように無邪気にそう問われれば、ハボックに否定することは不可能で。
「…まあ、甘いけど悪くないですね」
と答える程度に留めるしかなかった。
ハボックの甘い物嫌いを知っていて、それでも自分の好きな物を相手にも好きになって欲しいと願うロイの、どこか子供のような思考に。
結局、この人には勝てないのだと、ハボックは心の中でだけ小さく溜息をついた。

――まあ、だからと言って、子供の頃にすら使わなかった児童用の歯磨き粉を使う羽目になるとは思わなかったけどな。…しかもイチゴ味だし。


その後しばらく、歯を磨く音だけが洗面所に響いていた。
















※子供な大人と歯磨き粉。


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