好き










その日は、めずらしく二人揃っての休日だった。
それは予定を調節したわけでもなく、偶然重なった。
そんなことは滅多にあることではない。
…だというのに。

ソファに背を預け、少し見上げた視界に映るのはきれいに片付けられた部屋で。
共に穏やかな休日を送るはずの相手は朝早くから家事に精を出していて。
ぱたぱたとせわしなく視界を行き来する金色を、ただ視線で追い続ける事しかすることがなかった。
せっかくの休日なのだから、本を読んだっていいし、錬金術の研究をしたっていい。
そうわかってはいても、目はついその姿を探してしまっているのだ。
理屈ではないのだと、こういう時に思い知らされる。
もう己の生活から切り離して考えられないほど、捕われてしまっているのだと。

今、掃除なんかしなくてもいい。
今、洗濯だってしなくていい。
食事だって一食ぐらいなくたって構わないから。

こちらを見て欲しい。
そんなこと口に出せるわけがない。
だからこそ、あいつが気が付くべきなのだ。
そう自分の機嫌の悪さに理由を付けて。

「ハボ」
呼んでも、聞こえなかったのか振り向かない。

気に入らない。

外に出て、手際良く洗濯物を取りこんでいく姿に更に呼びかける。
「ハボ」
やはり振り向かない。

気に入らない。

窓辺に置かれる洗濯物。
ハボックはすでに台所で煮込んでいるスープを見に行ってしまった。
ようやく戻ってきたかと思えば、途端。
「あ、そうだ。風呂も掃除しとかなきゃ」
またぱたぱたと小走りに姿を消す。

気に入らない。

のろのろと身体を動かして、窓際まで移動して。
先程取り込まれて畳まれたシーツを手に取り、広げて包まる。
シーツは暖かい日の匂いがした。
「大佐、何してんですか。せっかく、畳んだのに…」
くしゃくしゃになっちゃうじゃないですか。
「知るか」
「…何拗ねてんですか」
「知らん」
「たーいさ」
「お前なんか、知らん」
「大佐」
「…お前が、無視するからだ」
聞こえるか聞こえないか位の大きさで、呟くように文句を口にすれば。
小さく溜息が聞こえた。
呆れたのだろうか。それとも怒ったのだろうか。
その反応にシーツの影からこっそり覗いてみれば、自分の目に映ったのは予想外な表情だった。
優しく、穏やかに。
柔らかい微笑みを浮かべて目を細めて。
愛しいのだと語る瞳に自分の顔が火照るのが分かった。
「あんた、ずぼらなくせにきれい好きでしょ。だから、部屋もシーツも全部きれいにしてあんたが気持ち良く過ごせるようにしたかったんです」
キスできるほど近くまで顔を寄せて、優しい声で囁いてくる。
その様に、目の前の相手を独占しているのは自分なのだという優越感が湧く。
「………」
「…大佐?」
見上げるだけで答えない私に、ハボックは少しだけ戸惑いを見せる。
今この瞬間、ハボックの心は自分のことだけで占められているのだ。
そんな些細な事にさえ、幸福と安堵を得る。
「…いい」
いいんだ。
「は?」
何のことか分からず首を傾げる相手に両手を伸ばす。
頬に触れて、そのまま首に滑らせて抱き寄せて。
「そんなことしなくてもいいから」
だから、私だけを見て欲しい。
抱きしめる腕に力を込めて。
啄ばむようなキスが降って来るのを受け入れる。
キスの合間に小さく笑われた気がしたが、特別に許してやることにした。
















※我侭で甘えたなひと。


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