におい

※『それが日常である幸福』追記






side:R



「起きないと遅刻しちゃいますよ。あんた、今日早番でしょう?」
「んー…」
「たーいさ」
「…ハボ、うるさい…」
起きろと施す声と手から逃れるために、もぞもぞと布団の中に潜り込む。
そこは、体温で温まっていて、日だまりに似た、でも小さく閉ざされた幸せな世界で。
居心地のいい場所を探して身体を移動させていく。
その時、ふと、鼻を掠めたにおい。
何故か酷く心を暖めるそのにおいに、まだ半分眠っている頭が下す命令のまま、動きを止めて出所を探した。
「あんたねぇ…後五分だけっすよ?」
「ん」
苦笑を交えた声に小さな応えを返して。
それを探す。
もう少しだけベッドの縁の方。
小さく頭だけ動かしてその場所に移動して。
そのにおいを深く吸いこんで。
ようやく、眠っていた頭がそれが何かを認識した。

「煙草、か」
あと、それにハボックのにおいが加わって。
――安心できる匂いだ。
でも、まどろんでいた意識がしきりにそれだけでは何か足りないと訴える。
「……」
太陽のにおい――正確には太陽に焼かれた埃のにおいだが――。
それはハボックからしかしない。
少なくとも、このシーツからはしないのだ。
田舎者のにおいだと笑ってやった事もあるが。
私はそのにおいも好きなのだ。
被っていた布団を落として起きあがり、ベッドから足を下ろす。
そして、朝食を作っているだろう『大好きなにおい』のところへ、まだ眠い目をこすりながら歩いていく。















BACK