執着

※ヒュハボ。一応R-18。『欲求』の続編っぽい。












































side:M



正直な所、俺はただこいつに執着しているだけなのかもしれない。
尤も、だとすれば執拗なまでの執着心だと、そう自覚してはいるが。



「…っ……う」
必死で堪えられたくぐもった悲鳴に。
薄く笑みを浮かべて喉元に噛みついてやった。
途端、それが痕を残さないように軽くではあったにも関わらず、組み敷かれた身体は過敏に反応を示す。
「やっ」
ふるふると緩く首を振って逃れようとする様が情欲を煽るのだと。
たぶんこいつは自覚していないだろう。
涙の溜まった目許を拭ってやり。
「声、殺すなよ」
そう耳元で囁くと。
いい加減にしろとばかりに背を強く叩かれた。
「んなわけ、いかないでしょ…が」
ここ、何処だと思ってんですか。

睨みつけてくる青い瞳は初めて抱いた時と何一つ変わらない。
怒りと苛立ちと、僅かな戸惑いと。
それらが入り混じった瞳は決して逸らされることなくこちらを見据えている。

「資料室、だろ?」
そう答えて、組み敷いた身体を無理やり起こす。
途端、怯えるようにもがくのを力で抑え込んだ。
そのまま座らせて奥深くまで押し込んでしまえばもう抵抗など出来ないと知っている。
「ひっ…あ……っ」
自重で深くまでくわえ込んであえぐ姿が艶めかしい。
金色の髪が汗で額に張り付いているのを退けてやると、剣呑な眼差しとぶつかった。
呼吸もままならないような状況で。
それでも屈しない精神には正直感心するが。
「まだ足んねぇみたいだな」
「っ!…あっ…や、めっ…」
俺を飲み込んで濡れた音を立てる場所に指を這わせてなぞってやれば、途端に身体をこわばらせ目尻に涙が溜まる。
こいつの身体は意外なほど快楽に弱い。
いや。俺がそう作り変えたのだから、弱くなったが正解だろうが。
「んっ…っ」
身体を震わせてしがみつく姿に拒絶の色は見えない。
内壁は従順に俺の欲をくわえ込んで離すまいと絞め付けている。
ただ、瞳だけが支配を拒むようにまっすぐ俺を見据えていて。
それがこの男の精神のあり方なのだろうと、そう思い、背筋が粟立つほどの興奮を覚えた。
何者にも支配されない孤高の野生。
普段はおよそ感じられないそれが垣間見えるこの瞬間が、俺は好きなのだ。
「…っ……ん」
「っ…少し緩めろ」
緩く腰を動かした途端、きつく絞め付けられて。
キツイな、と思って低く喉の奥で笑った。
絞め付けてくる内壁はほとんどまっさらな状態と変わらない。
初めて挿れた時と変わらない身体はなかなか俺を受け入れられず、いつもてこずるはめになるのだ。
悪くはないが。
「いい加減慣れろ」
毎度こんなにきつくちゃ俺の方が辛いだろうが。
そう言って。
瞳を覗き込むと、怒りの篭った眼差しで強く睨まれた。
「んな、の…っ…俺、の…知った事じゃ、ない…」
揺さぶられるのと、乱れる呼吸とで。
なかなか発音しずらいだろうに、きっぱりとそう言う。
だけどな。それは逆効果だぜ?
濡れた瞳で睨みつけたって雄の欲を煽るだけだと、同じ雄の癖に理解していないらしい。
まあ、それも彼らしいと言えば彼らしいが。
「…やっぱもっと頻繁に来るべきか」
「冗、談…じゃないっ…」
耳元での囁きに苛立った声が返されて、俺は薄く笑った。
「勿論、冗談じゃねぇよ」
わざと卑猥な水音をたてて自身を引き抜き、濡れてヒクつく入り口に触れる。
トロトロと体液を垂れ流すハボックのそこを指で弾いて。
すくんだ瞬間を狙って指を2本侵入させた。
当然こわばった身体はそれらをなかなか受け入れない。
ついさっきまでくわえ込んでいたとは思えないほどの狭さに、昏い喜びを覚える。
こいつを見ていると征服欲と奇妙な優越感が沸く。
もっと乱して理性も何もかも剥ぎとってめちゃくちゃにしてやりたいと、そう思う。
「ロイには抱かれてねぇみたいだな」
ご褒美だ。
「…あっ…」
指を抜いて大きく足を開かせて、よく見えるようにしてから自身をあてがって。
ぐちゅっと音をたてて潜り込む。
「は……っ…くっ」
突然の挿入に呼吸できなくなったのか苦しげにあえぐ姿に、少し動きを止めて待ってやり。
幾度か浅く息をするのを確認して律動を始める。
「んっ…あ……っ…」
「気持ち良さそうだな」
自身も腰を動かして快楽を追う様に嘲笑ってやれば。
「っ」
すぐさま正気を取り戻す。
本当に、どこまですれば捕らえる事が可能なのか少しも読めない。
それが面白くもあり、もどかしくもある。
ここまで読めない相手にはこれまでの人生で数人も出会った事がない。

――まあ、悪くねぇよな。

「素直になっちまえよ。どうせ俺が終わるまで解放してやる気はないぜ?」
首筋に歯を当てて、噛みつく仕草をしてみせると。
「…さい…てーっスよ…アンタ」
それだけ呟いて、ハボックは観念したかのように目を閉じた。
それは早く終わらせるために協力してやるという、ハボックなりの譲歩の形で。
それを知っている俺としては複雑だ。
それはつまり、俺のする事など目を瞑ってやり過ごせる程度のものだと言う事で。
だから絶対そんな風に思えないようにしてやろうとも思うのだ。
深く突き入れて掻き回す。
「ひっ」
痛みを感じたのか逃れようと僅かによじった腰を、無理やり掴んで抑え込んで。
容赦なく内側をえぐってやる。
「ん……っ…」
「ハボック」
抑えつける腕を掴む手が震えていて、なだめるように名を呼んでやると。
僅かに開かれた目が俺を捉えた。
その涙に濡れた瞳は、何故か戸惑いの色を濃く示していて。
「ハボック?」
もう一度呼んでみると、困ったように視線を逸らされた。
行為の最中では初めて見るその表情に、俺は理由が分からず首を傾げたが。
結局、こいつの身体が与える快楽に流されて思考は途切れ、その表情の理由を見つけることはできなかった。

































「アンタ、何考えてんですか…」
荒い息を吐き出しながら、為されるがまま後始末をする指を受け入れるハボックに。
俺はにやりと笑ってみせる。
「何だと思う?」
「…………」
問いに返るのはどうでもいいとばかりに逸らされる視線だけで。
ぐったりと力の抜けた身体を清めてやりながら、先程の表情の意味を考えてみることにした。
もし俺の想像が正しければ…
「なぁ、ハボック」
「………何スか」
呼びかけに応じ、疲労の色が濃い瞳が見上げてくる。
億劫そうだが律儀に返事をするところが何とも言えない。
「お前、俺の事結構好きだろ」
「…バカ言わんで下さい」
ありえねぇっスよ。
「へぇ…本当に?」
更に聞けば、呆れた顔で睨まれた。
その表情は本気で不愉快そうで。
どうやらまだまだ落ちてきてくれそうにはないらしいと分かった。
それと同時に。行為の最中に見せたあの瞳の意味も何となくだが分かった気がする。
恋愛とは程遠い感情かもしれないが、それでもこいつは俺が嫌いじゃない。
恐らく、と言うよりはほぼ確実に、繰り返される行為を不本意だとは思っているだろうが。
それでも。
「………じゃあ、執着は?」
一瞬目を見開いたハボックは、幾度か瞬きを繰り返し。
それから眉間に皺を寄せて俺を睨み付けた。
「………」
絶対に答えない気なのか、口は閉ざされたままだ。
それがより確信を抱かせる。
俺がこいつに感じているのと同じ感情を、こいつも俺に感じ始めているのだと。
「身体の相性は抜群だし。何より、お前さん、俺の事嫌いじゃないだろ?」
「……………」
たっぷり10秒は俺の顔を見詰めてから。
ふいっと視線が逸らされる。
逸らされる寸前のその視線からは何の答えも見出せなかったが。
否定の言葉が無い事が答えの代わりだと勝手に解釈し。

――ま、そのうち絶対惚れさせてみせるさ。

その日を想像し、くつくつ笑う俺に。
ハボックは酷く不愉快そうに顔を歪めていた。
















※鬼畜を目指して挫折した話。


BACK