苛立ち

※ヒュハボ。R-18。『欲求』ハボック視点。蛇足。


































side:J



己に覆い被さり満足げに笑みを浮かべる男の姿に、複雑な苛立ちを抱く。

俺の上司の親友。俺自身にとっては上官にあたる男。
その男は今、俺の身体を組み敷いて支配していた。
資料集めの手伝いを言い付けられて行った人気のない資料室の一角で押し倒されて。
強引に容赦なく、そのくせ繊細な手管で、身体を繋げられた。
勿論、抵抗はした。
でも、すべて徒労に終わるだけだと理解させられただけで、それがまた腹立たしい。
ついでに自分の甘さを呪ったりもしたが、結局、これまた腹立たしい結論に達しただけだった。
この男を傷つけたくないなどと、何故思うのか。
自分でも分からなかった。
「っ…あっ……何、考えてんですか…っ」
「さあ、な」
机に押し付けられて、無理やり繋げられて揺す振られる下肢は己の意思で動かす事さえ困難で。
精一杯の抵抗で力一杯睨み付けてやれば、低く笑われた。
楽しそうに細められた目が苛立ちを煽る。
薄く笑みの形を浮かべる唇はそのままに、腰を強く、奥深くまで押しつけられて息を飲んだ。
散々に慣らされたそこは卑猥な水音を立てて相手の雄を受け入れて絞めつけてしまう。
それが中を擦り上げるのが気持ちいいなどと認めたくないというのに。
身体は確かに快感を拾って、もっと強い刺激を欲しがっていた。
「…っ……くっ」
相手を傷つけられず逃げる事もできない以上、己にできる抵抗は睨みつける事だけで。
目を逸らさずに相手を見据え続けることしかできないでいた。
流されてしまえば楽になれると分かっているが、プライドがそれを許さない。
それに何より、こんな扱いを受けているのに自分はこの男を嫌いになれないでいる。
その事実に、俺は困惑していた。
「…しかし、マジで初めてだったとはな」
とうの昔にロイのやつに喰われてるかと思っていたのに。
そう言いながら俺の足首を掴み、左右に割り広げて目を細める。
何を見ているのかなど聞かなくても分かった。
「見…ないで…下さい……」
吐き出す息は熱く、声が掠れる。
「なんだ、恥ずかしいのか?」
「そ、じゃないっス…けど…あんま、見て…っ…面白いもん、じゃない…っしょ?」
途切れ途切れに口にする声が身体に響いて辛い。
はあ、と大きく熱い息を吐き出して、頭を机に預けて。
それでも視線を逸らさずにいられたのは奇跡に近かった。

意地でも支配されている事を認めたくなかった。
たとえ、その人間に惹かれていたとしても。
誰かに支配されるなど、絶対に御免だった。

「…危険なのはわかり切ってるけどな…」
そう独り言に近い呟きを漏らす男に、首を傾げる。
何が危険だと言うのか。
妻子ある身で親友の部下に手を出すような人間のくせに、恐れるものがあるとでも言うのか。
正直俺にはこの男の精神構造は理解できそうにない。
たぶん一生理解できない。
だから、この行為の意図も分からず。
だから、余計に苛立つのだ。
「なあ、少尉」
「なん、スか?」
やけに優しい声で呼ばれて内心むっとしながら答えれば。
少し寂しげに笑ってみせるのが謎だ。
何を考えているのか掴ませない態度に苛立ちは募る一方だというのに。
なぜ、俺は睨む事しかしないのだろうか。
「何で抵抗しない?」
本当に何でなのだろう。
しようと思えば、簡単な事のはずなのに。
「…して、欲しいんです…か?」
「そう言うわけじゃねぇけどな」
あまりにもあっけなく組み敷けたもんだからな。
逆に問えば、そう言って頭を掻く。
その姿はまるで難問を前に途方に暮れる子供のようで。
「だって、アンタ…大佐の親友、だから」
そうとだけ言っておく。
本当はそれだけが理由ではない気がするのだけど。
腹が立つからそれは教えてやらない。
「…ああ、そういうことか」
「そ、っスよ」
「お前、意外と忠犬なのな」
「意外と、は余計です…」
どこか複雑そうな顔で納得する彼は、どうやら俺のささやかな仕返しには気がつかなかったようだ。
それにくつくつと笑ってやれば思った以上に身体に響いて、ひくりと内壁が中にある物を絞めつける。
その感触にぞくりと背筋が粟だった。
「なんだ、感じてるのか?」
つ、と指で半勃ちのものを撫でられて、その刺激に頭の芯が痺れる。
「…っ……アンタ、ホント…なに、考えてんですか…」
視線は外さないまま、自分でも強張っていると分かる声で問う。
「そう、だな…」
はぐらかす目的の返事と共に、勃ち上がった俺のそれを手で扱かれて。
同時に腰の動きを再開された。
様子を伺っているらしく、角度を変えながら幾度も突かれて、その度もどかしいような痒みを感じる。
「ん……くっ」
眉を寄せて、上がる声を必死で堪えて。
目の前の男の瞳が欲情の色を濃くするのを睨みつけて。
流されそうになる理性を引き止めるだけで精一杯だった。
「イイんだろ?」
耳元でわざといやらしく囁く声。
そのまま濡れた舌が耳の中に侵入してきて、無意識に小さく悲鳴を上げてしまう。
触れられる全てが熱くて、気持ち良くて、変になりそうだった。
「ちゅ…うさ…っ……」
途切れ途切れに相手を呼ぶ。
とにかくこの熱をどうにかして欲しかった。
中と外に同時に与えられる刺激は強すぎて苦しい。
「っ……ひぅっ…や、だっ」
突き上げてきたと思えば、次の瞬間には引き抜かれて。
もっと強い刺激が欲しいのに与えてもらえないことに焦れて。
もっと、と言葉を紡ごうとした時。
「…インラン」
嘲笑うように囁かれて、理性が戻った。
「ア、ンタ……サイアク、だ」
そう口にするかしないかのうちに、また深くまで挿れられて揺す振られて。
残った気力で睨みつける。
たぶんもう大した力は篭められていないだろうそれに、男が笑った。
分かっている。
声も、吐息も震えていて。
すでに抗う余力はないのだ。

「なら、これ以上落ちることはないってことだな」
最悪なら、それ以下はない。

低く囁くようなその言葉を聞いたのを最後に。 後の記憶は酷く曖昧で、正直覚えていない。
与えられる快楽に素直に脚を開いてそれを受け入れて。
前も後ろも相手の気が済むまで弄られて。

男の与える快楽に蕩ける思考の片隅で。
「覚悟しとけよ?――ジャン・ハボック」
そんな言葉を聞いた気がした。
















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