欲求

※ヒュハボ。R=18。前の続き。

































side:M



荒い吐息をこぼす眼下の男の姿に、不思議なほどの高陽感を得る。

金色の毛並みの、親友の番犬。
そいつは今、俺に組み敷かれて下肢を晒け出していた。
半ば強引に推し進めた結果ではあるが、身体はすでに繋がっていて。
本人にそのつもりはないのだろうが、普段のやる気のない茫洋としたそれからは想像もつかない艶めいた表情を見せていた。
「っ…あっ……何、考えてんですか…っ」
机に押し付けられその身を支配されてさえ、睨み上げてくる瞳には強い光を宿していて。
その怒りを帯びた視線がひどく心地良い。
「さあ、な」
薄く笑って腰を強く、奥深くまで押しつけてやれば。
途端にその身体がびくりとこわばって、内壁が絞めつけてくる。
自身のその反応にすら戸惑うようにひくついて。
俺の嗜虐心を煽り立てる。
「…っ……くっ」
それでも反らされなかった深い青には怯えの色はなく。
ただ、先程と変わらぬ怒りと僅かな戸惑いが伺える。
「…しかし、マジで初めてだったとはな」
とうの昔にロイのやつに喰われてるかと思っていたのに。
そう言いながら足首を掴んで左右に割り広げて。
半ば反応しかけたものに目を細めれば。
「見…ないで…下さい……」
息は荒いが、意識は意外にしっかりしているらしい。
「なんだ、恥ずかしいのか?」
「そ、じゃないっス…けど…あんま、見て…っ…面白いもん、じゃない…っしょ?」
はあ、と熱い息を吐き出して、頭を机に預けて。
それでも反らされない強い視線に苦笑した。

獲物は、捕らえることが難しいほど。
陥落させることが困難なほど。
その捕獲の過程が面白いのだ。

「危険なのはわかり切ってるけどな…」
独り言に近い呟きに、首を傾げる仕草が意外に幼く見え可愛らしい。
だが、決して可愛いだけの生き物ではないと知っている。
これは、あの戦場で、あの親友の隣で、さも当たり前のように生きていける種類の生き物だ。
一瞬でも気を抜けば、その牙の前に命を落とす事もあるほどの。
「なあ、少尉」
「なん、スか?」
呼べば律儀に返る応え。
それだけ聞けば、それは恭順の意と取れないこともないだろう。
だが、瞳に宿る光がそうではないと教えている。
だから。
「何で抵抗しない?」
「…して、欲しいんです…か?」
「そう言うわけじゃねぇけどな」
あまりにもあっけなく組み敷けたもんだからな。
そう言葉を濁せば。
あっさりと答えは返ってきた。
「だって、アンタ…大佐の親友、だから」
「…ああ、そういうことか」
「そ、っスよ」
自らが唯一従っても良いと決めた相手の親友だから、傷を負わせるのはマズイだろう、と。
そう考えたのか、こいつは。
「お前、意外と忠犬なのな」
「意外と、は余計です…」
くつくつと笑えばそれが響くのか、ひくりと内壁が動いた。
「なんだ、感じてるのか?」
つ、と指で半勃ちのものを撫でてやれば。
「…っ……アンタ、ホント…なに、考えてんですか…」
やはり抵抗する気はないのか睨みつけるだけだったが、強張った声で問われた。
「そう、だな…」
刺激に負けて勃ち上がったそれを手で扱いてやる。
同時に腰の動きを再開して、様子を伺う。
「ん……くっ」
俺の動きに翻弄されているくせに、まだ理性を手放す気はないらしい。
眉を寄せ、慣れない刺激に上がる声を耐えようとする様が男を煽るのだとは、気付いてはいないのだろう。
潤んだ瞳や赤く染まった目許、意外に白い肌がうっすらと朱を帯びるのが扇情的だ。
「イイんだろ?」
耳元でわざと厭らしく囁いて、舌を這わせる。
小さく上がる悲鳴が加虐心に火をつける。

――たまんねぇな。
心の中でそう呟く。
あの親友が本気で欲しがる理由がよく分かった。
親友に負けず劣らずプライドが高く、他人の支配をよしとせず、だがこれと決めた相手への忠誠心は厚い。
そこまで分かっているのに。
なのに、まだ。どこか底知れない部分を残していて。
それが何なのかを暴きたくなる。

「ちゅ…うさ…っ……」
途切れ途切れの声に思考の海から引き上げられた。
そこには、身の内に与えられる刺激に理性を失いかけた瞳があって。
快楽に弱いほうではないのだろうが、それでも初めて与えられる種類のそれは、彼の思考を奪い、
理性を剥ぎ取るのには充分だったようだ。
「っ……ひぅっ…や、だっ」
痛みがない訳ではないのだろうが。
突き上げてやれば押し出そうと蠢き、引き抜こうとすれば離すまいと絡みつく内壁は、明らかに快楽を拾っていることを伝えている。
「…インラン」
素質があるとしか思えないその様に、嘲笑うように囁く。
途端、恍惚としていた表情に理性が戻るのだから本当に面白い。
「ア、ンタ……サイアク、だ」
まだ悪態をつく力は残っているらしい。
だが、睨みつける目にはもう大した力は篭められていない。
声も、吐息も震えている。
余力がない証拠だ。

――あと一歩、か。
それで、少なくとも身体は落ちてくる。

「なら、これ以上落ちることはないってことだな」
最悪なら、それ以下はない。
笑いながら最後の詰めに入る。

あいにく、俺はロイほど甘い男じゃないんでな。
目の前にぶら下がったチャンスを逃がす気はないんだよ。

片手で腰骨を潰さんばかりに押えつけて。
高ぶったものの先端を爪で抉じ開けて。
狭い体内にギリギリまで押し込んで蹂躙して。
上がる悲鳴は合わせた口内に閉じ込めて。

そうして。
とうとう閉じられた瞳に、笑みが浮かんだ。
ただされるがまま、自らも無意識に緩く腰を動かして応えてくる様に理性の色はなく。
あるのはただ本能のまま快楽を追う獣の姿で。
その姿に、これを完全に落とした時には今以上の満足感を得られるだろうと確信した。

もちろん、リスクは限りなく大きい。
ライバルは――少尉本人は知らないだろうが――数多くいるし、少尉自体も場合によっては、命すら危ういかもしれない相手なのだから。
もっとも、最大の敵は、彼の上司であり自分の親友である男だろうが。

「必ず落として見せるさ」
低く、もう言葉の意味も理解できていないだろう相手の耳に囁く。
「覚悟しとけよ?――ジャン・ハボック」
















※ヒュー⇔ハボ。元はR-16だけど念のためR-18指定。


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