かくれんぼ










――あ、大佐だ…。
視界に入ったその後ろ姿をぼんやりと見つめる。
俺がいるのは屋上で。
だから、当然大佐は気づいていない。
どうやって中尉の監視から逃れたのかは知らないが、どうやら上手く抜け出してきたようだ。
中庭をのんびり何気ない風を装って歩いているが、よく見ればさりげなく辺りに人影がないことを確かめている。
――そこまでしてサボりたいもんかね?
そう思ったがまあ、怒られるのは大佐だけなので特に止めようとは思わなかった。
が。
「あ」
思わず声を上げてしまった。
なんて事をしてるんだ。あの人は。
そう頭を抱えたくなる。

俺の目には中庭で一番大きな――大人が隠れることが可能なほど枝振りの立派な――木によじ登ろうとする上司の姿が映っていて。
意外に軽い身のこなしで登っていってしまった。
これでは、そうそう他の奴には見つけられないだろう。

――やれやれ。
背後に近づく気配に溜息が漏れる。
「少尉、大佐を見なかったかしら」
その言葉に振り返れば、予想通りの人がいて。
たいして怒っているように見えないのを意外に思いながら首肯する。
「はあ、見ましたけど」
「そう…なら後三十分したら連れ戻してもらえるかしら」
「…三十分後、ですか」
「そう。三十分後よ」
お願いね。と優しい微笑みを浮かべてから去っていくその姿が消えるのを待って。
もう一度溜息をつく。
「…イエス、マム」
かくれんぼはせいぜい百数える位が相場だろうに。
結局、自分も中尉もあの人に甘いのだと苦笑するしかなかった。
















※元メール用SSS。


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